ハンディキャップ

長男が3ケ月になった。 



しかし首が坐らない。

長女の時は2ケ月半で寝返りしていたから、少々気になる。長女の小さい時の写真を見て驚いたが、2ケ月になってすぐの段階で、うつぶせ状態で首をしゃんと上げている。長男は3ケ月の今でも無理だ。体重が重すぎて上がんないのかなぁ、と口では笑いながらも、先日二人が昼寝をしている間に育児書と医学書をひっくりかえして、知的障害の欄の「首の坐りが遅い」という記述にビクつき、「首が完全に坐るのは4ケ月」という解説に胸をなでおろし、という事をくりかえしていた。

私がこんなに過度に反応するのにはワケがある。私は長男を妊娠していた時に産婦人科医に意外な事を告げられていたからである。風疹の抗体が無いという事と、妊娠初期にある感染症に感染した疑いがあるという事。それによって奇形がひきおこされる可能性はゼロではないと言われて、ものすごくショックをうけたのだ。自分の子供に障害が出るかもしれないことにショックを受けたというより、そう言われて愕然とした自分にショックを受けたのだ。

私はかねてから、自分の子供がハンディキャップを持っていても変わらず愛することが出来ると確信を持っていた。事実、長女が産まれた時は、陣痛の中でも「ハンディキャップがあってもいい、とにかく命だけは下げて出てきて!」と思っていた。だから、私は医者から何を告げられてもショックなんて受けないと思っていたのだ。

私は甘い。

私は以前から「五体満足でさえあれば」という言葉が大嫌いだった。この言葉を耳にすると「わー、ヤメテー」と叫んでしまいそうになるのだ。うまく言えないが、究極の差別発言の様に思えるのだ。だから、長男を妊娠中、この言葉だけは言うまいと思っていたが、心の中からわきおこる想いを整理できず、ソウルに居る友達に手紙を出した。

彼女は長女と5日違いの女の子を出産したママで、とても素敵な女性なのだ。彼女から来た返事の、「五体満足を願う気持ちは母親として当然で、それは差別ではないと思う」という一節を何度も何度も読み返しては、自分はそんなに立派な人間ではない、弱い人間なんだ、と認めることに努めた。

私は昔からハンディキャップについて考えていた。周りにそういう人がいたわけでもないのだが、いつもいつも考えていた。それで小学校の時のHRで「差別」に関する文章を書かされた時、

私は「かわいそう」という言葉が嫌いだ。
同情が嫌いだ。
その言葉には上から下を見降ろす気持ちがある。

という風に書いた文章を、先生が名前を伏せて紹介したところ、ほとんどのクラスメートが「そんなことない。かわいそうは、かわいそうだ。」とか、「その文章を書いた人間の名前を教えろ」とか、大糾弾合戦にまで発展した。先生は私の顔をチラチラ見ながらも最後まで私と言わなかった。私は気持ちの整理がつかず、最後まで発言できなかった。

ただ言えることは、私自身、何かハンディキャップを持っていて、人から「お気の毒に」とか「がんばって偉いですね」と言われたらものすごく腹立たしいと思うのだ。「アタシはこれでアタシなんだから、かわいそうでも、偉くもない。そんな目で見るなよー」と叫びたくなる、ということだ。

最近になって、大事なのは「同情」ではなく「共感」だと気がついた。子供と接することは、「育児」という普通名詞で語られるが、実際のところは、人間対人間のつきあいが基本で、その根底に流れるものは「共感」だ。だから子供とつきあうセンスというのは、人間としての感受性につながると思うのだ。ハンディキャップを持つ人や子供に接する時、必要なのは「かわいそう」という同情ではなく、階段を登る度に思う「車椅子だったら大変だろうな」という言葉に代表される様な共感なのではないかと思えてきた。

「多様性を受け入れるのが真の国際人」

と信じて疑わない私は、以前行ったインドで不思議な光景を目にした。それは最初にカルカッタに着いてから実に1ケ月後、再度カルカッタ入りした時だった。カルカッタにはワザと手足を切られて、バクシーシを業としている人達が沢山いる。最初、その光景を見たとき、目をそむけたくなる様なショックを受けた。正直言って恐かった。ところが、再度カルカッタに戻って来た時の私は違っていた。インドに慣れたせいもあったかもしれないが、別に特別な風景でも何でもない様に思えてきたのだ。

そこで、手足がなくスケボーに胴体を乗せている男の子と果物屋のオジサンが一緒に果物を食べているのを見て思わず顔がほころんでしまった。彼らは普通に「今日も暑いねぇ~」などと談笑をしている様だった。二人の間には、同情する側とされる側という関係はなく、単に同じストリートで商売をする仲間という関係しかなかった。

インドの魅力がちょっと分かりかけた瞬間だった、かも。
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