教育のチカラ(III)

シリーズ完結編は、長女の同級生のLちゃんのお話をしようと思う。

オーストラリアでは日本以上に離婚、再婚などのケースが身近に感じられる。ステップファミリーも沢山居たし、日本では例えば「○○さんのところ離婚したんだって」「後妻さんだって」とかヒソヒソ話で言われそうなことも、普通の会話に「事実」として含めることができる。要するに離婚も再婚も別居中も、ステップファミリーも、何らネガティブなイメージがない。

長女の友達には別居中の友達も居て、そのお友達を送り届ける時は、ママの家、ダディの家、そして我が家から比較的近いおばぁちゃんの家の3つの送り届け先があって、日によって違っても、それが何の問題をも生まなかった。うちの長女も、そのおばぁちゃんのお家に遊びに行ったりと、色々と可愛がって頂いた。

長女にはオーストラリアで本当に一生忘れられないと思う程の仲良し7人組の友達が居て、彼女たちと事あるごとにお互いの家を寝袋かついで泊まり歩くという「SleepOverClub(お泊りクラブ)」なるものを結成したりと、本当にエンジョイしまくりだったのだ。そのお友達の中にLちゃんが居た。

実は彼女は長女よりも遅れて学校に転校して来た。私が彼女に始めて会ったのは、訳あって長女たちをその学校のアフタースクール(学童保育)に預けて迎えに行った時のことだった。

見慣れない美少女系の女の子の存在に気づいたのだが、彼女はあまりにも表情に変化がなく、ぼーっとした感じに見えた。その新しいお友達Lちゃんが居たから今日は楽しかったと長女は言ったのだが、私には、その表情に乏しい女の子と遊んで長女は本当に楽しかったのかな?とちょっと思ったりもした。でもそれ以上には何も思わなかった。

長女は、学校であったことを事細かに話してくれるタイプで、そのLちゃんの話もそれから頻繁に出て来ることになった。

「どうやらお勉強はちょっぴり苦手らしい。
セーフウェイ(スーパー)には行ったことがないらしい。
ママがジャンキーなお菓子を買ってくれない。」

その辺りで、相当なお嬢様なのね、と私は勘違いしていた。

「彼女にはお兄さんが居て、時々会う。
彼女のママは本当のママじゃないらしい。
でもLちゃんはそれ以上のことを言いたくないらしい。」

ふぅんと思った。特に珍しい話でもない。でも彼女の無表情な感じがどこから来るのか、それだけは何となく想像がついた。離婚して、親戚のところにでも預けられたのかもしれない。

そんなこんなの話もLちゃんの口から出ることがあったらしいが、長女はあまり人のプライベートに首つっこむタイプではなく、また他の友達も根掘り葉掘り本人が言いたくないことを聞く様なことは一切なく、ただただ毎日ギャーギャーワーワーとオテンバに遊んだりしていた。

でもLちゃんだけは一度もお泊りすることができなかった。理由があったらしい。彼女が我が家に遊びに来ると、決まって夕方にママが迎えに来る。一目で子供を赤ちゃんから育てていないことが分かる様な淑女で、人間的に尊敬できる人だった。べたべたの愛情ではなかったが、Lちゃんの表情が生き生きとしてきたのを見ていても、きちんと愛情を込めて大事に大事に育ててきたのだなということがわかった。時々「まだ帰らないっ」と駄々をこねちゃうところも愛らしくて私には感動的な場面でもあった。彼女は子供らしくも振舞えるし、普通の子供として何も問題なく育っている。何よりも出会った頃の無表情さを思い出せないくらい、生き生きとチャーミングな女の子になっていっているのが私には嬉しかった。

彼女のバックグラウンドが分かったのは、それからかなり後になってからだった。

長女がLちゃんのことを突然話しはじめた。というか、Lちゃんが突然長女に自分のことを話し始めたらしい。事実は小説よりも奇なり、を地で行くようなストーリーだった。

彼女にはお兄さんが居て家族4人、何の問題もなく生活していたはずだったが、ある日、お父さんが実は

ゲイ

であることが発覚(私だったらあまり驚かないかもしれないが)。それを知ったママが、キャーという感じになり(どうやら精神的なダメージがあったらしい)、とても子供を育てられる状況ではなくなり子供二人は施設へ。結果、お兄さんとLちゃんは別々の家庭に引き取られる事になったそうだ。それで時々お兄さんとは会うこともあったりするし、オーストラリアでは引き取った家族に対してはかなり厳しいルールがあるそうで、お泊りをする時は事前に警察署かどこかに届け出ておかないといけないらしい(届出を出せば良いのだそうだが。それも多分子供の人権を守るという観点からだと思うので素晴らしいシステムだと思う)。それで簡単にお泊りにも来れなかったらしい。

彼女がその学校に編入して来るまで、彼女は学校というものに行ったことがなかったそうだ。表情が乏しかったのも、お勉強が苦手だったのも合点が行った。

長女のバースデーパーティの時、お友達のリクエストにお答えして、DIY炒飯(自分で具を選んでホットプレート上で自分だけの炒飯を作る)を夕食にしたのだが、Lちゃんはいつも長女と一緒に食べているオニギリを作りたいと言ったので、オニギリを作ると同時に、オニギリのシーズニング(鮭とワカメのオニギリふりかけみたいなの)を1パックプレゼントした。家でご飯さえあれば、これでオニギリができるのよ、と彼女に渡したら、彼女は、本当に頂いていいの?いいの?とまるで超豪華商品に当たったかの様にじわーっと満面の笑みを浮かべて、遠慮がちに、Thank you so much!と言ってくれた。

彼女のその笑顔は、彼女が心から喜んでくれているのが手にとるように分かる、ピュアでチャーミングな笑顔だった。そう。出会ったあの時には想像もできなかった暖かい笑顔だった。そして彼女もまた、長女を含め他の気の強い系ギャル6人に引けを取らないオテンバな女の子になっていった。

Tweet about this on TwitterShare on Google+0Share on Facebook0Share on LinkedIn0Share on TumblrTEmail this to someone