ルービックキューブに見るWeb 2.0的考察

昨年より我が家の男の子たちの間のブームは「ルービックキューブ」である。

rubixそしてうちの長男も次男も、あっという間に全面揃えてしまう。特に長男は3*3では飽き足らず、4*4、5*5なども購入し、気がつくとくるくると回している。彼はカバンの中にこの3つを常に携帯し、バスの中でもMTRの中でも、時には歩きながらくるくる回す。

長男は、ルービックキューブノートなるものを作成しており、全面完成されるまでのタイムを記録している。大会に出るレベルではないにしても、

1分、かからないのである。

うちの子たちってすごい。

がこのエントリの本題、ではない。

では何故、彼らはそんな簡単に全面を揃えることができたのか。私たち(ダンナ含む)が子供の時代には、友人・知人の中でさえ全面揃えられる人などいなかった。みんな1面、2面揃えたくらいで大体分解してしまう。あ、それって私だけか。

その答えは簡単だ。

攻略方法が公開されているのだ。

まずルービックキューブ本体に攻略ノウハウの書かれた小冊子がついてくる。それで大まかな方法論が分かる。

それだけではない。

子供たちはネットで検索して、更なる攻略法(Tips)、およびスピードアップする方法を詳細に検索してはブラウズし、印刷し、時にはYouTube画面の前に釘付けになっていた。そしてその方法論を更に兄弟間で共有する。世界中のノウハウを自宅PCに集積して、日々研鑽にはげむ。

その結果。

私たちの子供の時代には「全面揃えられる」というだけでヒーローで、しかもそれを秒単位で完成させてしまう人というのは、ほんの一握りだったに違いない。

しかし、たとえ子供でもあっても情報(しかもトッププレーヤーの頭脳内にのみあるはずのコア情報までも)を、簡単に手にすることができるのが現代、なのである。

つまり、今現在ルービックキューブを1分以内で全面揃えられる人というのは、世界中に相当数(膨大に)居るのである。

この状態を的確に表現したのが、羽生善治氏である(*1)。

「高速道路を走りきった先での大渋滞」

梅田氏の著者内で紹介された彼の考えとは、簡単に言うと「ネットの登場で、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたが、その先では大渋滞が起きている」というものである。

つまりある一定レベル(プロの一歩手前という相当なレベル)までは圧倒的な速度でもって実力を上げていく環境が整ってしまった、ということなのである。そしてその次の段階に抜け出すには、全く別の要素が必要であり、それについては彼自身最も興味を抱く部分であると言う。

要するに現代では、様々な分野で知識、経験、方法論の詳細に至るまで公開されており、それにアクセスして貪欲に情報を飲み込めば、ある一定レベルに到達するための高速道路は既に整備されつつあるということなのである。これが全ての分野を網羅しているわけではないため、その「敷かれていない分野」にフォーカスしていくというのも、これから生き残っていくためのコツなのかもしれないが、その新規開拓分野であっても、たちどころに高速道路が敷かれてしまう可能性だってある。

つまり、羽生名人が語った様に、高速道路が一気に敷かれても、高い敷居の位置が単にスライドしただけで、依然としてプロに至るためには高い壁が存在し、そこをブレークスルーするには人間の何らかの別の能力が必要となってくるのである。

面白い。

そう言えば「知識管理」のトレンドは既に「知の創造」へとシフトしていると以前書いたが、高速道路を抜け出た先のステップというのが、「創造」の域かもしれないと考えると、結局は古代から人間の求めるものは全く変わっていなかったのか、と思ったりもしちゃうのである。つまりどんなツールが提供されようと、その度に色々な高速道路が整備されてきたわけで、飛脚、電話、ラジオ、テレビだって、登場した当時はある意味何らかの「道路が敷かれた」と表現できるに違いない。そしてその都度、その先の「創造」へと人々を駆り立てて行った。そしてその「創造力」を発揮できたのは、いつの時代も「一握りの人」なのである。

今年の研究テーマが「右脳」である私は、当然のごとく茂木健一郎さんの本を濫読しているのだが、面白いことに彼の著書の中にも羽生名人が登場する(*2)。著書内で紹介されている彼の言葉はこうだ。「これからの時代、大切なのは『ものごとを記憶すること』ではなく、記憶した知識をどのように使うかだと思うからです。」

要するに、知識偏重の教育では記憶するまでの面倒を見るが、それをどのように使うかというところにまで行っていない。

しかしこの著書内では、この言葉は羽生名人の持つ記憶力(過去の将棋譜・対局情報の蓄積)を賞賛し、その記憶力のベースがあってこその創造であるという文脈で使われている。また、別著書内(*3)では、その記憶した情報を基に引き出される「直感」というものが未だ研究者たちにとっても未踏の分野であると触れられている。

結局、人間の「学び」のゴールに到達するまでには、いくつかのステージがある、ということなのである。
次回のエントリでは、そのステージについての考察と、「競争激化のこの時代に生き残る人材を育成する」というミッションについて考えてみる。

*1)「ウェブ進化論」梅田望夫ちくま新書P.210「インターネットの普及がもたらした学習の高速道路と大渋滞」
*2)「脳を活かす勉強法奇跡の『強化学習』」茂木健一郎PHPP.95「大切なのは『ものごとを記憶すること』ではなく、『記憶した知識をどのように使うか』」
*3)「それでも脳はたくらむ」茂木健一郎中公新書ラクレp.24「羽生将棋は失敗学でできている」

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